5つ星のうち5.0It's a Woderful Life 投稿者eggman2014年8月20日 形式: 文庫 タイトルの『ワンダフル・ライフ』は、フランク・キャプラ監督の名画『素晴らしき哉、人生!(It's a Woderful Life)』から来ている。本書でグールドがWonderfulだと言っているのは、バージェス頁岩―ブリティッシュコロンビアで見つかった約5億年前の軟体性動物の化石―から復元された生物たちと、その生物たちが語りかけてくる歴史の本質(Nature of History)である。5つの目とノズルのような口を持つオパビニアや、当時の食物連鎖の頂点に君臨していた、円盤のような口で獲物を噛み砕くアノマロカリスなど、ワンダフルな生命―現存する動物群とは異質な生命体―は見ものだ。 ただ、グールドがこの本で言いたいのは、そこだけではない。先述の『It's a Wonderful Life』のなかで、ジェームズ・スチュアート演じる主人公の守護天使は、主人公がいなかった場合の世界をリプレイしてみせ、歴史における一見些細な存在の恐ろしい力を示す。グールドは、進化の歴史もこれと同じように、些細な違いによって、全然違ったものになりえただろう―たとえば、人間という種は生まれていなかったかもしれない―と主張する。進化とは、予測できるもので、人類というゴールに向かって着実に進歩してきたものなのだという考え方を捨て、予測できない偶発的な歴史観を唱えるのである。人類が存在するのは奇跡的なことなんだから、人類もワンダフル・ライフなのかもしれない。